地球学研究センターとは
近代科学は二元論と要素還元主義という基本的考え方のもとに発展してきました。これは自然を細かく分け、その狭い領域のなかで解くべき問題を設定し、それを解くという考え方です。この方法論は極めて有効で、ギリシャ以来、自然の背後に隠されている秘密を、次々と解き明かしてきました。その知は、われわれの社会にもフィードバックされ、社会に応用するという目的で技術が発展し、科学と技術は車の両輪のごとく文明を駆動してきました。
1970年ころから、地球環境問題や資源・エネルギー問題など、地球規模の問題が認識されるようになり、近代科学技術文明のあり方に、疑問が投げかけられるようになりました。私はその頃から、文明を、俯瞰的かつシステム論的視点で捉えることの重要性を指摘し、地球システムに、人間圏という新たな構成要素を作って生きる生き方こそ、文明の本質であるという考え方を、提唱してきました。
この考え方をもとに、文明の健全な発展のためには、細分化され過ぎた学問体系を再構築し、新たな知の枠組みを構築する必要があることを主張してきました。それは、真の意味での、文理融合の学を目指すもので、「地球学」と名付けられました。それはまた、ある意味で、二元論と要素還元主義というこれまでの科学の方法論に、新たな地平をもたらそうという、デカルト、ベーコン以来の画期的試みです。
その試みは、具体的には、当時の我が国を代表する、文理の最高の知を集めた「フォーラム地球学の世紀」という研究会の形で、1995年に開始されました。以来20数年、様々な成果をもたらしつつありましたが、メンバーの高齢化もあり、2017年3月をもっていったん、この研究会は中断されました。その成果は「全・地球学」という大著にまとめられています。しかしその後も各界から、この研究会の存続を望む声があがり、今回この研究会を発展させる形で、本学に新たな研究センターを立ち上げました。
本学の建学の精神は、「世界文化に技術で貢献する」というものです。これはまさに、地球学の試みに重なります。さらに加えて、これからの技術の発展は、自ら、未来の文明をデザインする能力を必要とします。それは地球学という、俯瞰的視野の知の体系無くして行いえません。その意味でも、我が国の大学のなかで、これからの科学技術時代を先取りした、新しい試みと言えるでしょう。
地球学研究センター
所長 松井 孝典